週末、遅めの朝の阪急電車は
思ったより乗客が多かった。
まばらにシートが空いていて、
立っている人もいる。
空いている座席に座る。
向かいに座っている
爽やかな青色のシャツの女性が
文庫本を読んでいた。
次の駅に着く。
少し足元のおぼつかない
初老の男性が
電車に乗り込んできた。
よろめきながら
向かいシートの空いている空間に
腰を下ろした。
一息ついて
片手に持っていた新聞紙を
両手で広げて読み始める。
次の駅では
多くの人が乗って来て、
シートは埋まり、
立っている人が増えた。
ふと見ると、
深緑色のカーディガンを来た
背の高い男性が
右手で吊皮を持ち、
左手に持った単行本を読んでいた。
すっかり込み合った車内では
ほとんどの人がスマホを触っている。
スマホを手にしている人が圧倒的で、
次いで眠っている人、
紙の情報媒体を持っている人は至極まれ。
それでも最近、
本を読んでいる人が増えた
ように感じている。
ポツリポツリと
列車一両の中に
必ず見かけるようになった。
年齢層も幅広い。
10代、20代と思われる若者が
本を手にしている。
本に集中している。
何か静かな変化が
生じて来ているのだろうか?
本への回帰が、ひっそりと。
紙の確かな手ざわり、
印刷された活字、字体、フォント、
筆者それぞれに特色ある文体、
紙の情報媒体への尽きせぬ偏愛。
本を読む見ず知らずの人達に、
秘かに親しみを覚え、
好感を寄せてしまう。
松江を歩いた。
日曜の早朝、家を出る。
松江で開催された
養老孟司先生の講演会に
参加するために。
松江まで車で行くという選択肢もあったが、
今回はそうしなかった。
そうしないために早朝に出たのだった。
日曜日の早い朝の道は空いていた。
出雲に着く。
よかった、間に合う。
7時40分発の列車に乗るために出雲市駅へ。
列車の案内表示を確認する。
おや?
7時51分、米子行きとある。
おかしいな、
私の事前調べでは7時40分発、
9時11分松江着だったのだが。
駅員さんに尋ねる。
7時51分発は何時に松江に着きますか?
えーと、ちょっとお待ち下さいね。
51分発・・・松江は8時34分ですね。
ありがとうございます。
講演会は10時から。
1時間半も前に着くことになる。
次の列車は?
・・・うん、これに乗ったら間に合わない。
そのまま7時51分発に乗ることにした。
列車での移動はいい。
手も足も自由な時間。
車内はゆったりしている。
溜めていたメールを読み、返信する。
あとは、ぼーっと外を眺めた。
山の緑、
田んぼの緑、
家々、
時折湖。
8時34分松江着。
講演会場に直接向かうには早い。
少しブラブラする。
知人がお勧めしてくれた神社まで歩いた。
途中の道で、
随分と前に連れて来てもらった
コーヒー屋さんがあることに気付く。
ピスタチオのシュークリームの
記憶がよみがえる。
神社は静かだった。
ひとり、女性が本殿の前で手を合わせている。
手水を使い、本殿へと向かう。
お賽銭を投げいれ、二礼二拍手一拝。
境内をクルリと回ってから外へ出た。
まだまだ時間はあるが、もう向かおうか。
ブラブラと歩いた。
歩道があって歩きやすい。
何となく風情のある町並み、
小さな水音を立てる小さな川。
ブラブラブラブラ。
こっちで合っているのだろうか?
何となく違う気がしてきた。
前からやって来たスポーツウェアの女性に尋ねる。
すみません、湖はあっちですか?
女性はしばし考えて、
180度逆の方向を指さす。
あっちですね。
えっ?
見当違いの方向に歩いてた?
ありがとうございます。
あと、35分。
間に合うか?
ともかく一旦駅前に戻ろう。
せっせと歩いて松江駅へ。
あと25分。
事前調べでは駅から会場までは徒歩23分。
もう歩いてでは間に合わない。
バスは約12分だったはず。
バス停に向かうが、
はて?何番のバスだったっけ?
セカセカと観光案内所へ。
2番か3番のバスだと教えてもらう。
残り15分。
2番のバス、
は、1分前に出たところだった。
次のバスは10時。
事前調べではタクシーは約7分だった。
もうタクシーしか手段がない。
自分一人なら遅れたって構わないが、
知人と待ち合わせしている。
チケットは私の手元。
タクシー乗り場で待機していた、
タクシーに乗り込んだ。
行き先を告げ、
タクシーが走り出す。
駅前を離れ、右へ左へと曲がる。
ここはさっき歩いた道。
さっき渡った橋。
うんうん、ここまで歩いた。
四つ角でタクシーは
私が選んだ道と真逆の道へと曲がった。
会場前には開演5分前に到着した。
ちょうど知人とバッタリ出くわした。
一緒に会場内に入る。
養老先生の縦横無尽のお話は面白かった。
間に合ってよかった。
15,799歩。
うん、歩くために
わざわざ列車で行った甲斐があった。